代表理事ご挨拶

日本ヘルスケア役員協会について
~病院が求めるこれからの監事像とはー~

長隆 日本ヘルスケア役員協会代表理事(監査法人長隆事務所代表)

協会設立の背景

平成27 年、医療法の改正が行われました。
その背景には、国費が投入され、公益に資する義務がある医療法人や社会福祉法人を舞台にした不正が後を絶たないことがあります。
ガバナンスをどう築くかという観点に絞って医療法改正が行われたのは、医療法改正の歴史上でも珍しい事です。
この改正に至った理由は、大規模な医療法人の「特定医療法人」取り消しに端を発した問題が契機になっているものと思われます。
全国に展開している最大の民間医療法人グループの1法人が、特定医療法人という、公益性が厳しく求められる代わりに法人税優遇を受けられるという立場にあったのにも関わらず、基本的な経営組織のガバナンスが機能せず、税金逃れを疑われる行為が行われていた問題です。この問題では本来、オーナー個人が負担すべき支出を特定医療法人に負担させていたとして、約32 億円が追徴されました。
これだけではなく、全国の病院や医療法人に広く普及している「MS法人」という形の子会社が、こうした担税回避や、不正な実質配当に悪用されているケースが多く見受けられます。
このような実態があるため、医療分野での早急なガバナンスの確立と透明性の確保のために、徹底して透明性を図れる制度化が必要であると国は考えたのです。
課題は、医療や介護の分野で、早急にガバナンスを確立することだと言えるでしょう。
そのために必要なことは、この分野での経営のプロ人材を確保することであり、プロ意識の向上、相互啓発等を狙いに、日本ヘルスケア役員協会の設立に至ったものです。

医療法人の役員がやらなければいけないこと

まず経営を補佐する監事や理事は、理事長に対しても「言うべきことを言う」ことです。
これが最も大事なことだと考えています。
人間は同調圧力に弱いものです。しかし、肝心な時に「それは悪いことだ」と、勇気を奮い起こしてでも言わなくてはいけません。震えながらでも言うべきことは言う。それを言うことができない人は、やはり監事や理事には相応しくありません。
医療法人や社会福祉法人の監事になる人にとって、一番大事なことは、独立心です。
誰かに雇われているのではない。自分はその主権者のために動いている。そこで主権者が誰かというなら、結局、タックスペイヤー(納税者)ということです。
病院を開設する医療法人は、全国に約5000 あります。
民間病院には、強いリーダーシップで診療所から小規模病院、大病院へと拡大していったワンマン経営の代表格と目されている理事長が君臨する病院も数多くあります。トップの意思に反する職員は排除され、イエスマンの集団となっていることで病院組織のガバナンスが崩れ、ダッチロールを起こしているところも少なくありません。
世代交代期を迎えて、後継者が育てられていない場合、組織のガバナンスは実質、空中分解状況になります。知力は有っても体力が伴わず、病院の継続に関して外部に救いを求める病院経営者が多くいます。 医療法人は、出資による支配ではなく、社員数による支配であるため、病院の存続よりも利益目的の派閥抗争が激しくなる傾向があります。
改正医療法によって、お目付け役となる監事の権限と責任を強化した所以です。

病院が求める監事像

現在、税理士や公認会計士の監事は多くいますが、大きな組織の監督・経営経験がなければ監事の重責は果たせない、というのが持論です。
これからの監事像を箇条書きにすると以下のようになります。

・監事は盲腸のような存在ではなく、内部統制の番人である
・監事は経営者の足を引っ張る存在ではなく病院を守る存在である
・期待される監事像:不正調査に経験と実績あるOB 等が歓迎される
・安かろう悪かろうではなく倫理観の強い監事が歓迎される時代
・これまで閑職だった監事が脚光を浴びる時代となる
・理事、幹部職員に対して理事長に代わって苦言を呈することができる
・顧問税理士に敬意を表される存在
一方で、
・人脈ルートがなくなり監事候補選任に困惑する場合もある
・責任が大きくなり辞任希望が増える
という懸念も出てくるので、
・交代は責任を負う気概のある人に
・重責のリスクを軽減するために役員損害賠償責任保険の活用も必要
・正当な注意払い、正当な報酬支払いを求めることは必須
となります。
また、次のような重責に耐えられる実績が求められます。
監事の職務は、
・理事の自己取引、代理人
・社員総会・理事会の招集
・理事の行為差し止め
・理事の解任の訴え
・議案の調査(議案の調査は権限と共に義務であり内容は元より法人経営に広範な知見が必要)
などとなります。
そして監事は公認会計士、税理士、弁護士、医療経営士など補助者を十分に活用していく必要があります。

Profile

長隆(おさたかし)
昭和 16 年 3 月生まれ。昭和 39 年早稲田大学卒業。昭和 42 年税理士試験合格。昭和50年公認会計士第3次試験合格。昭和51 年公認会計士長隆事務所開業。平成14 年税理士 業務部門を法人化、東日本税理士法人に名称変更、代表社員就任(現在、会長)。平成28 年監査法人長隆事務所設立、代表社員就任。総務省地方公営企業経営アドバイザー、総務省 公立病院改革懇談会座長など多数の役職を歴任。